タイピングと通信文例
by Masao Matsumoto (1938-2003)、JA1AYC Since 1955
文字通信に欠かせないタイピング
ひととき前までは、いわゆるキーボード恐怖症というよりもキーボード面倒症の方が多く、RTTYもやってみたいがキーを打つのがどうもとしりごみをしていた方が多かったのではないでしょうか。しかし最近になってパソコンの出荷がTVセットを超えるようになって次第にキーボ―ドアレルギーも無くなってきているように思えます。
第一、携帯電話でさえメールのやりとりを可能にしているわけですから、青少年層にはとっくにそんな抵抗はない筈です。どちらかと言えば、これまでパソコンにも触れてこなかったような中高年層にはまだ若干の抵抗もあることでしょう。たしかにパソコンやワープロの普及はごく一般の人をキーボードに近づける大きな役割をはたしてきたといえるでしょう。

ただし文字通信を考えるとき、それはRTTYであれPSK31であれ、基本が英語の通信です。原則的にパケットのような漢字変換処理を行いませんから、やはり英語のキーボードは不可欠です。そして日本の局同士では良くローマ字によっての通信もさかんですが、これとて英語配列の方がはるかに使いやすいことがお判りかと思います。
これまで「カタカナ入力」をしてきた方には多少つらいかもしれませんが、この際思い切ってアルファベット入力に切り替えることをお勧めします。キーボードの上のABCは一見不規則に並んでいますから、これが最大のネックかもしれません。でも良くしたもので、この配置は主に使うキーを考えてまとめられたものですから、一度覚えてしまえば、後はキーの文字をみながら打つと言う必要がなくなります。
丁度ピアノの鍵盤のようにドレミが書かれてなくても習性的にキーが打てる筈です。もしこれでお悩みなら、それ用のタイピング練習ソフトもありますから、なるべく早く習得されることをお勧めします。いまでもたまに「2本指で打っています」とか「一字一字文字盤を確かめながら打っています」と言う方もなくはありませんが、通信を行う場合にはダイヤル操作とかSメータの読みとか、その他目を使うことが多いので、出来ることならばキーボードには指だけでタッチして目はスクリーンとかその他に向けられるのが望ましいのです。
5本の指を使いますと両人差し指の位置は常に固定されますので、その他の文字を打ち込む場合には自然にそのキーの位置にそれに対応した指が動くようになるのです。 筆者などもまだそうですが、数字のみは間違えないように文字盤を見る癖がついていますけれど、これはコールサインの中の数字とか、レポートの数字を送る時だけですから、そういつも目に頼ることもないわけです。
RTTYの通信にくらべてPSK31は通信速度がはるかに遅いので、慣れてくれば、それこそ声にだす感じの速度でのチャットも不可能ではありません。始めの内は適当なメモリファイルを作って定例文を入れておけば、それを利用しながら、送信文を構成することができます。キーボードの操作を覚えることはこれ以外にも、例えばパソコンによるログ管理においても、コールサインとか、その他のデータの打ち込みの能率が上がること間違いありませんから、一挙両得と言うことになるわけです。
細かい話ですが、キーボードの操作は手の大きさとキーボードの大きさにも関連してきます。どちらかと言うとデスクトップタイプのパソコンに付属した標準型のキーボードが最適です。ノート型はどうしてもキーとキーの間隔が狭く、またキーの打ち込み段差も少ないので、慣れていればあまり苦労もしませんが、練習とか、最初の内は標準型のキーボードを使われるとFBです。
キーを見るとなにか敵にでも会ったようにやたらに指をたたきつける方を見かけますが、これはキーボードにやさしくないばかりでなく、決してタイピングの効率上良くありません。どちらかと言えば指の面をひらたく、かるく押さえ込んでやるようなキータッチがスムーズなタイピングにつながるのです。
RTTYの通信では自動的に大文字(アッパーケース)が使われますし、PSK31では基本的に小文字(ローワーケース)が使われます。後者は特に大文字と小文字によってデータ量が違うので通信速度の上からも小文字が有利です。でもCQをだしたり、コールサインには大文字の方が見やすいので、そんな折のみシフトキーを使うことになります。
もちろんメモリした文章を読み出すにはFキーも良く使われますが、これは前述の数字キーと同じようにそう頻繁ではありませんから確かめながら打ち込むことになります。 習うより馴れよと言うくらいで、タイピングはまさに馴れそのものですから、多少面倒は感じられるかもしれませんが、まずは基本的に5本指を使ったアルファベット配列のキーボードの操作に慣れることをお勧めします
PSK31の通信文例
RTTYをやってこられた方には、PSK31だからと言って特にかわった交信を行いませんから同様と考えてもよいでしょう。ただし初めてこのPSK31を始める方には、CWの交信がそうであるようになにか決まったルールがあるのではないかと疑問に持たれる方がおられる筈ですから、まずはまったくの文字通信ニューカマー向けの解説をしてみたいと思います。
これもCWをやっておられる方には若干有利かもしれません。なぜかと言うと、通信の内容をコンパクトにするために往々にしてCW通信用の略号が使われることもあるからです。でも通常の通信であればほとんど平文の世界ですから、通信の始めと終わりの簡単なルールさえ覚えれば、あとは簡単です。
【CQを出す】
これはCWとかSSBとほとんど同じです。しいて言うならば、SSBでの「こちらは」の代わりにfromの意味の「de」を使うくらいです。
=CQ CQ CQ de JA1AYC JA1AYC JA1AYC=
このCQ3回、こちらは1回、コールサイン3回の組み合わせを3回くらい送り、最後にPSE K(PSEはどうぞ=Pleaseの省略形、K はツートツー、すなわち文章終了を意味するCW用語)でしめくくります。これはあらかじめメモリに入れておけばいちいち打ち込む必要がなくて便利です。
もっともPSK31SBWでもLoggerでもこの定例CQはCQボタンを押すとあらかじめ覚えられていますから、そのまま使えます。自局のコールサインも初期設定でソフトのユーザー名(この場合コールサイン)を登録しておけば、これも自動的に覚えられていますから、少なくもCQに関してはなにも操作が必要ないと言うことです。
【誰かを呼び出す】
相手局のコールが判っていて、その局を呼ぶにはこれも通常の呼び出しと同じです。
=J○1○○○ de JA1AYC PSE K=
で良いのですが、念の為に自局のコールサインを2度、3度打つ場合もあります。これも良く使うわけですから、マクロで登録しておけば便利でしょう。
コンテストとかDXペディションの局を呼ぶ場合はSSBなどでもそうですが、相手局のコールは省略して自局のコールのみ連呼することもあります。
=de JA1AYC JA1AYC PSE K=
この場合PSEすら省略することもあります。
【呼び出しに応答する】
これは各自自由な表現で良いわけですが、ごく一般的には
=J○1○○○ de JA1AYC Thank you for the call Very glad to see you.=
の挨拶で始まり、次にはお定まりのレポートや自局のQTC、名前の紹介と続きます。
=Your signal is 599 in my QTH. QTH here is Yokosuka City and my name is Masao, Masao=
この時にもコンディションの具合を見てQTHおよび名前を数回繰り返して送ることもあります。さもないと相手からQTHや名前を聞きかえされることもあるからです。最初の内はなるべくショートにまとめた方が無難です。そこで
=How do you copy my signal? BTU=
(このBTUはBack to you、すなわちお返ししますの意味で良く使われます。あとは相手のコールde自局のコール+pse Kで良いのです。Kの代わりにKNを使うこともあります。
これはCWでも良く使われていますが、通信が続いている中で特定の局にバトンタッチする時の通信終了の記号です。つまりKNと打っているのを見た場合には、この交信はA,B2局間でまだやりとりが続いているとわかるのです。
【再びレポートを確認する】
さて送信の順番がこちらに帰ってきました。そこで
=J○1○○○ de JA1AYC,Thank you for the nice report, dear △△△san. and also for the first contact. I will send my QSL via the buro.=
などなどと続きます。
【シャックの紹介】
特にRTTYやとりわけPSK31通信ではよくシャックの紹介が行われています。これはお互いにどんな設備やソフトで交信をしているか気になるところで、このメッセージを送ってくる局も多いのです。通常はこの中身は定例文ですから、メモリに蓄えておいて送信してくるケースがほとんどのようです。リグやコンピュータやアンテナやとやたらに文字と数字が並ぶので、これらをいちいち手打ちで打ち込むのは結構大変ですから、別ファイルに入れておいたほうが助かります。
=Here is my station・・・と来て、次にメモリされた局の紹介が続きます。
Transceiver XX900S Antenna 4ele yagi (20-10mtr) Dipole(80,40,30)
Computer Pentium400 Soundblaster16 Software Logger Ver.6.10 by KC4Y=
などなどですが、これは各人それぞれのシャックの構成によるものです。もっともこの紹介を最初はともかく2度目も3度目も自動的に送られますと辟易しますので、使い方は十分に心得ておいてください。
【その他のメッセージ】
あとはお馴染みのお天気のことであったり、多少自己紹介的なハムのキャリヤとか文字通信の経験度合いとかになりますが、これらはもう英作文の世界ですから、いちいちご紹介しません。
【そしてファイナル】
これも定例文化していますけれど、一般的には
=Thank you so much I hope to meet you again and I wish you all the best and many DXs.Good luck and Sayonara from Yokosuka, JA1○○○ de JA1AYC SK=
このSKもCW通信では通常使われている送信終了の略語で、これを表示することで特定の局との交信が終わったことが第三者にわかるのです。
以上は英語による簡単なファーストQSOの1例ですが、日本局同士であれば、無理して英語でやりとりする必要もないわけで
=romaji…=
と打って、以下ローマ字によるメッセージの交換になりますが、この場合は中身は日本語ですから、どんな表現もやりとりも可能になることは言うまでもありません。
【難しいのは】
なによりも英語で通信をする場合にはこのファ―ストQSOではなくて2度目以降の通信でしょうか。「またお会いできて大変うれしく思います」は当然として、あらためてシャックの紹介でもありませんから、前に会って以降これこれの国とコンタクトできたとか、この新しいソフトを使ってみたとか、アンテナが変わったとか、今日はコンディションがとりわけFBだとか、もろもろの話題に移っていくのですが、この先もどちらかと言うと英語のお勉強の世界です。
まあ自信の無い内はファーストQSOにこれ努め、ラグチュウは国内同士にとどめた方が無難かもしれません。やたらにCQを出すといつ誰から呼ばれるかもしれませんから、ひとまずは呼ぶ側にまわっておけばひとまず安心です。だからと言って、あまり萎縮する必要はありません。英語も所詮われわれ日本人にとっては外国語ですから、いちいち文法とかミススペルを気にしていてはなにも出来ません。単語の羅列でもかまいませんから、どうぞ気楽にお楽しみください。

BQ9P 松本さん(JA1AYC)の声
いま蘇る”見事なパイルアップさばき!”
BQ9P、プラタス島DXぺディション(2001年3月 6日~15日)に参加されたJA1AYC 松本さんのオペレーションが日本の友人によって音声が録音されていましたので、その一部をここに収録しました。
BQ9Pの詳細は松本OMによって「東沙島冒険的通信記録」としてレポート」(http://www.qtc-japan.net)[ イベント情報→BQ9P DXpeditionをクリック] がありますので、そちらもあわせてご覧ください。
DISCOVER HAM LIFE ex JA1AYC 番外編 ハムライフ半世紀 (qtc-japan.net)
[編注] モービルハム 2000年2月号に掲載された松本正雄氏の記事を再編集しました。
QTC-JAPAN.COM 2010.12.17