top of page
星が瞬く夜

読み物

Maritime Mobile

法律から見た「海上の移動運用とは?」

by Kenji Nakayama JI5RMU

 ≪マリタイム・モービルの数々の疑問に答えて≫

Maritime Mobile とは、日本語に直訳すれば「海上の移動」と言う意味です。
 

アマチュア無線の移動局の形態は、陸上、海上、上空の3種類があり、相手局に移動の形態を知らしめるために(地域、場所などを知らしめるためではありません)コールサインの後に付して、陸上移動局の場合はJI5RMU/1(関東電波監理局(当時、現・関東綜合通信局)管内で運用)、海上移動局の場合はJI5RMU/MM、上空移動局の場合はJI5RMU/AMと使用するように決められています。
 

Maritime Mobileは海上移動局として使用される呼び方ですが、その他の呼び方には、ディズニーのキャラクターであるミッキーマウスとか、往年のビッグスターマリリン・モンローとコールされるOMさんもいます。  これらはMMの愛称であり、マリタイムモービルよりミッキーマウスの方がなんとなく可愛いし、言いやすいからで、ミッキーのM、マウスのM、MMとコールしているし、移動の形態を知らしめている訳ですから、なんら法的に問題はありません。
 

1.jpg

JI5RMU(筆者):日新船舶㈱ 第十一すみせ丸・船長(当時

MMから交信中に多くの方から

「私は/MMとの交信は初めてです。マリタイムモービルとは何ですか」
「東京湾内ですから/1になるのではないですか?」
「/MMと/1の境界はどこになるのですか」
「停泊中は/MMではない!」
「仙台港停泊中はわかりました。行政区は何区ですか?」
「領海内は/エリアNo.ですよ」等々、色々な質問、指摘があります。
 その方達に反問致しますと、
「~さんから聞いた話では」
「~の本によれば」と言うお返事で、著名な方のお名前まで飛び出し、その方にお電話し法的根拠をお尋ね致しますと
「そのようなことは言っていません、どなたが言っているのですか?」
とのご返事で、こちらの法的解釈をご説明致しますと

 

「それで良いのではないですか」
と言って頂けます。今まで指摘頂いた方々には電波法第何条第何項の規定によると、法的根拠に基づいた明確なお答えを頂いたことがありません。仮に、領海内で/エリアNo.だったとすると、航海中の瀬戸内海、豊後水道、津軽海峡などは/4/5、/5/6、/7/8等の様にエリアNo.を送出するのでしょうか?ひどい方になると「自分の好きな方で良い」などと/MMに付いて指摘しておきながら無責任なことを言う方もおられます。  

どちらかの沿岸に添って航行すればよいのでしょうが船舶通航の安全上、中央を航行するときもあるわけで、海上に地域番号の線引きはありません。海上移動局をコールする場合において、「/MMの呼び掛け」が正しいとき/エリアNo.でコールしても、呼出局はミスコールと言うことで大した誤りではありません。しかし海上移動局が/エリアNo.を使用すれば重大な誤りです。常置場所の陸上局が/エリアNo.を言うのと同じようなことなのです。  

当局は多くの方達の色々な誤解及び疑問に、海上移動局の当事者として、皆さんに法的根拠に基づいたご説明をしなければならないと痛切に感じ、電波法令集(船舶には法定備品の一つとして最新の物を備えておかなければなりません)各出版物などの拝読及び地方電波監理局、JARLへの問い合わせなどを行いました。 その結果について申し上げます。

解釈の矛盾

電波法令集には確答する条文を見付けることができませんでした。 出版されている本によっては、著者によって見解がばらばらでした。 

例えば、著者、井原昇氏の「DXアニュアル」によれば、船舶に設置したアマチュア無線局は、それが公海上にあることを示すために"Maritime Mobile"(マリタイム・モービル)をコールサインのあとにつけます。 また東京湾の真ん中からであってもMaritime Mobileではなく、Portableなのです。

それではどんな状態のときにMaritime Mobileを使うかというと、船舶が"公海上"になければならないというのが国際的な通例です。いずれにしてもその国の国内法が適用される範囲は公海ではありません。その範囲内で運用するときはMaritime Mobileではなく、単にポータブルです。(原文のまま引用)

著者、野口幸雄氏の「現代アマチュア無線 運用基本ルール」には、移動先が海上の場合。陸上に無線設備の常置場所がある局が、船、ヨット、モーター・ボートなどの海上の移動体の上で運用するときは「モービル」の代わりに「マリタイム・モービル」(電信の場合は/MM)を、また、海上には地域番号がありませんから、電話の場合は運用の位置を地域番号の代わりに送信しましょう。
 

運用位置は、緯度、経度で表せば一番正確ですが、日本近海の場合には○○半島沖合などと、相手局がビーム・アンテナをむける方向がわかる程度のことでよいでしょう。
 

たとえば、JA1MKSが瀬戸内海を航行している関西汽船のデッキからハンディー・トランシーバで電話により「CQ呼出」をする場合は、「CQ CQ CQこちらはJA1MKSマリタイム・モービル瀬戸内海の小豆島の沖合です どうぞ」と送信します。  

この「マリタイム・モービル(Maritime Mobile)」は海上移動ということですから、河川、湖、沼などの船上に移動して電波を出すようなときは、移動の形態は「マリタイム・モービル」ではなく「ポータブル」になりますから注意してください。また、船、ヨット、モーター・ボートなどが港に、とも綱でつなぎとめられている状態のときも「マリタイム・モービル」ではなく「ポータブル」です。(原文のまま引用)

同じ出版社で出版された本ですが、これだけの違いがあります。また「国際的な通例」と言うならば、本を著作されるほどの方達が知らぬはずがありません。  

これは法令集に確答する条文が見当たらなかったために、著者の個人的な見解によって書かれたからではないかと想像致しております。 本の力は凄いものです。たとえ本の書かれたことが個人的な見解であっても、それが法律のように誤解されることがあるからです。 しかし法的に確答するものがないはずはありません。

2.jpg

JI5RMU 第十一すみせ丸・中山船長(当時)

3.jpg

オペレートのJI5RMU/MM

法律に基づいた解釈

自家用車が急激に増えてきた昭和30年頃、モービルハムも多くなってきた為か、電波監理局長から地方電波監理局長宛に、通達が出されました

郵波陸 第261号)昭和30年2月9月
地方電波監理局長宛、電波監理局長発信

『アマチュア局の取扱について』  
アマチュア局に関する規則類の改正については、2月1日施行をもって別途公布されたが、その取扱については、次の点に留意の上よろしく取り計らわれたい。

4 移動するアマチュア局の運用にあたっては、できるかぎり通報の冒頭において、次の例のように移動先を示す地域番号等を送出するものとすること。

(1)陸上において運用する場合 JA1AA/1(JA1AA局が関東電波監理管内で運用する場合を示す。) JA1AA/3(JA1AA局が近畿電波監理局管内で運用する場合を示す。)

(2)海上において運用する場合 JA1AA/MM

(3)上空において運用する場合 JA1AA/AM

(編注)
(郵波陸 第261号)昭和30年2月9月 地方電波監理局長宛、電波監理局長発信 は、 『本件対象文書は、現在、効力を失っております』 (総基移第216号,平成19年7月12日) 『特段別に定める規定はございませんので、電波法及び無線局運用規則の規 定に従って適切に運用してください。』

(同,平成19年7月20日) との総務省からの回答を得ています。

詳しくはこちら↓をご参照下さい。
http://motobayashi.net/callsign/untold/designator.html

つまり、 オリジナルの記事が書かれた 1999年時点では まだ生きていたかも しれませんが、 「いま」はなくなって(失効して)います。(TNX JJ1WTL ) 2014年1月18日追加

以上のように移動局の運用方法が明記されています。  

これは電波を発信している場所が陸上の移動局からか海上の移動局または上空の移動局からなのか(移動局の形態)識別するために出された通達です。

 /エリアNo.は陸上移動局のみ使用されると明記されています。
 
 /1、/MM、/AMなどの後に~移動、~沖または位置を付けるのは相手局がビームアンテナを向けやすいようにするためです。
 
従って、MMが領海内であろうが東京湾であろうがまた、停泊中であろうが海上において運用するにあたっては、Maritime Mobileを使用しなければなりません。
 
あくまでも船舶にアンテナを固定してQRVしている海上移動局はドックなどで船を陸上に揚げない限り、Portable(陸上移動)にはなれないのです。
 
海上(海洋)とは海事法令集における解釈によれば、海洋及びこれにつながる航洋船が航行できる水域。と言うことで、河川、運河も海洋から航洋船が航行できる水域であればあてはまります。河川、運河などは淡水の場所が多く、海上ではないと思われがちで、誤解されやすいので注意が必要です。ただし、琵琶湖など海洋から切り放された湖などはこれにあてはまりません。
 
船舶を無線設備の常置場所にしたときは(申請上、非常に難しくないに等しい)船舶の船籍港が常置場所になります。船籍港は船舶国籍証書などに記載されている港で、船の船尾にも記載されています。岸壁、係船ブイなどに係留中の船舶にはDead ShipとWorking Shipがあり、デッドシップとは何等かの事由により運行を停止し長期間動かないまたは動けない状態の船舶で、機関、舵及びその他の設備の故障、検査証書類の期限切れ、 売船、廃船などに因る係船、必要な運行要員のいない船、緊急時など即座に移動できない船舟類を言い、『船舶職員法第二条(定義)の二、係留船その他運輸省令で定める船舶』の係留船にあてはまり、船舶として扱われません。

下記の第六条の三(携帯局)になります。(陸上移動局と混同しないこと)

 

この場合はMaritime Mobileではなく、Portable(携帯局)を使います。

 

また、港湾及び河川のみを航行区域とする船舶も船舶には入りません。 

 

ワーキングシップとは稼動中の船舶で荷物、旅客などの積み降ろしを行うために停泊した船舶で、陸上移動局が荷物、旅客などの積み降ろしに停車したのと同じです。係留船と岸壁に仕事で着岸停泊した船舶とは、同じ、係留船と一般には言われていますが法的な係留船とは個別のもので(上記、法第二の二の船以外は係留とは言いません)、全く別であることに注意してください。

 

陸上移動局が停車中でもPortableを使用するように(よく半固定などと言われていますが法的根拠はありません。相手局に状況を把握してもらうために便宜上、個人の意思によって送信している)、海上において運用する場合は、航海中、停泊中を問わず、Maritime Mobileを使用し、移動の形態を通報しなければなりません。

 

ちなみに、領海の幅について、国連海洋法条約には「いずれの国も、この条約の定めるところにより決定される基線から測定して、12海里を超えない範囲でその領海の幅を定める権利を有する。」また、「この条約に別段の定めがある場合を除くほか、領海の幅を測定するため通常の基線は、沿岸国が公認する大縮尺海図に記載されている海岸の低潮線とする。」という規定があります。

 

日本船籍の船舶が外国の港に入港した時の国境線はShipsideになります。(船内は日本国です)。特にロシア、中国、北朝鮮などに入港着岸した時、船の出入り口の陸上側で警備にあたる兵士は国境警備隊が努めます。

日本国内にある外国領事館などと同じようなもので、その国の国内法が全て適用されるものではありません。

 無線局(放送局を除く。)の開設の根本的基準』 (アマチュア局)第六条の三(携帯局)

 

一、(3)船舶以外の移動体であって海上を航行または浮遊するもの、または航空機以外の移動体であって上空を航行または飛翔するものにおいて運用するものであること。

 

二、その局の移動範囲は、海上において運用する場合は日本周辺の海域、上空において運用する場合は、日本領土及び日本周辺の海域の上空に限るものであること。

 

となっております。 

 

船舶以外の及び航空機以外のと言う意味は海上においては、前記した船舶職員法第二条の(二)のほか、(一)櫓(ろ)、櫂(かい)のみをもって運転する舟、港湾、河川のみを航行する船舶を言いま。(詳しくは海事六法など、関係法規を参照してください。電波法令集Ⅱの第八編付録にも一部分記載されています)上空においては気球などを意味します。

 

移動局と携帯局は全く、個別のもので、混同しないよう注意してください。

 

法的な条文には必ず、除外すべきものがあれば、(~を除く)とか(~以外は)と明記されています。  

 

もし/MMが領海内または港湾内で、/地域番号を送出せよと言うのであれば、条文には、海上において運用する場合(領海内を除く)または(停泊中は除く)と明記されていることでしょう。

 

いかなる法律も、慣習とか通例など、曖昧なものはありません。必ず法律文として明記されているものです。電波法及び海事六法などにおいても根本はジュネーブ国際協定などの国際法のルールに添って作られた国内法です。

 

電波法と言えども日本国憲法、海事六法及びその他の諸法が関係しており、電波法だけで解釈をしようとすれば、誤解を生じる恐れが多々あります。

 

以上のように海上移動局の解釈が電波法のみならず、他の法規分野に至り、説明などがあまりにも面倒なために、今まで海上移動局の局長が法的解釈なども充分承知していながらも、海上移動局に付いての誤報及び誤解などを辯明するに至らなかったと言う経緯があります。

 

趣味の世界のアマチュア無線のことですから、あまり神経質にならず、コールの仕方など云々よりいかに会話を楽しむかと言うことが我々MMの局長の見解でした。諸先輩のご意見を参考にまだまだ勉強致したいと思いますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

 

この文章の作成にあたり、JARL、船舶局および海上移動局の先輩諸氏の多大なご協力、ご助言を賜りましたことを、誌面をお借りして、厚く御礼申し上げます。

参考文献
 
1)井原 昇  「DX MANUAL] CQ出版
2)野口幸雄 「現代アマチュア無線運用基本ルール」CQ出版
3)郵政省電波監理局長 発信 郵波陸 第261号
 「アマチュア無線の取り扱いについて」

4)郵政省 通信政策局・電気通信局・放送行政局 編集
 「電波法令集Ⅰ、Ⅱ」
5)運輸省監修 「現行 海事法令集」
 
モービルハム1999年1月号p.75~78 「法律から見た海上の移動運用とは?」(中山健次氏)を再編集しました。

(編注)文中「電波監理局」は総合通信局、「郵政省」は総務省に、運輸省は国土交通省に読み替えてください。
 
【マリタイムモービル】 Maritaime Mobile 
 マリンタイムモービルでなく「マリタイムモービル」が正しい表記、呼称です。

5.jpg
4.jpg
bottom of page